コラム

第72回 複雑性PTSDについて

2024.03.19

先週3月13日の国会で、複雑性PTSDの治療における経済的負担軽減策について意見が交わされました。

複雑性PTSDは治療が長期に渡るケースが多いため、病院や民間のカウンセリングルームに通院・通所している方へ

なんらかの経済支援が必要だという意見があり、

ケアに関わる一人として、今後これをきっかけに何らかの動きがあればなぁと感じたところです。

 

近年トラウマやPTSDという言葉はだいぶ社会に浸透してきましたが、

あまり知られていない、しかしながらトラウマ治療で重要視される言葉の1つに

「複雑性PTSD」というものがあります。 

 

「車の事故がきっかけで恐怖から運転できなくなった」というような、 

トラウマとなった出来事が明確に特定できる場合は、その出来事を治療の中で処理すれば 

また運転ができるようになったりPTSDの症状そのものも緩和されます。 

これらの特徴から単回性のPTSDと言われたりもします。

 

しかし、親からのネグレクトや虐待、学校でのいじめなど、 

大人になる過程で長期間辛い出来事にさらされてきた場合は、あまりに記憶が日常生活の中に 

点在しているため特定が難しく、また傷も深いため治療にかなりの時間や労力がかかります。

 

 しかも長い間にわたって他者から否定され続けると、いつの間にかその加害者の認識を自分にとりこんでしまい

「悪いのは自分なんだ、自分は恥ずかしい存在なんだ」と思い込み、

人格の形成や社会適応にも悪い影響を及ぼします。 

このような「恥・罪悪感」の感情に苦しめられるのも複雑性PTSDの特徴です。 

 

大人になっても慢性的な罪悪感や自責感が続き「自分が悪いから助けを求めてはダメだ」

「自分は助けを求めるに値(あたい)しない存在なんだ」という自己認知から専門機関や他者に

助けを求めることができない人も多いようです。 

 

しかし、それは決して正しい認識ではありません。 

幼い時に加害者から植え付けられてしまった認知は非常にしぶといですが、 

治療をして過去を克服することで自分に対する考え方も修正できるのです。 

 

助けを求める価値のない人などいません。 

しかしながら治療期間の長さとそれに伴う金銭面の課題なども確かに存在するため、

救われるべき人たちが受診や治療を継続できる支援の必要性はトラウマ治療に関わる専門家の

多くが感じていることだと思います。

少しの期待もこめつつ、今後の国の対応に注目していきたい所です。

 

※ 当相談室でPTSD治療をご希望の場合は、初回で症状を問診させていただき、

  症状の程度によって医療機関の受診も併せてお願いする場合がございますのでご了承ください。